INTERVIEW

BALLROOM EXPRESS 2020

開催に寄せたロングインタビュー

舞台はダンサーだけでは作れない

​公演を支える人々にスポットを当てた

​スペシャルロングインタビュー

 2020年2月22日(土)に京都府立文化芸術会館にて開催される社交ダンスエンターテインメントショーイベント「BALLROOM EXPRESS 2020(以下BE)」。公演日が迫り情報も徐々に公開されている中、ひときわ注目を集めた「手話通訳あり」という情報。
 社交ダンスイベントだけではなく、舞台イベントとしても非常に珍しいこの取組。今回「手話通訳」が入るきっかけはNami〈ねこ♡〉さん(@DeafdanceN)からのご提案だったという。(以下ねこ♡さん)
 ねこ♡さんは自身の第一言語が手話である「きこえない人」だが、海外長期滞在経験があり、ダンスのほかにもビーズクラフトなど多彩な趣味を持ち日々エネルギッシュに過ごされている。

 そんな彼女へ、社交ダンスとの出会いや魅力など、BEへの協力に至るまでの経緯を伺った。

—組むと想像以上に相手の思いが読み取れて驚いた

ねこ♡さんも社交ダンスをされているとのことですが、そもそもなぜ社交ダンスに興味を持ったのでしょうか。
ねこ♡:義父が社交ダンスをしていて写真を見せてくれたことがあるんです。だから文化として身近に存在していました。ただ、興味はあっても聞こえない私には関係ないと思っていましたね。

いざはじめよう!となったきっかけは何だったんでしょう。
ねこ♡:去年、2019年5月ごろにTwitterで社交ダンスのショーの情報が流れてきたんです。愛本店というホストクラブでの開催だったのでとても迷ったんですが、見るだけなら大丈夫かなと思い連絡しました。するとなんと手話のできる先生がいらっしゃるとのことだったので、これはもう、行くしかないと思い…。

すごく運命的ですね!初めてのショーはいかがでしたか。
ねこ♡:ラテンダンスナイトというプロの先生も出ていらっしゃるイベントでした。後から知ったのですが、Laidbackというサークルの発表としてだったそうです。ショーはプロも入りすごいフォーメーションになっていて、引き込まれ感が満載で!愛本店のキャストさんも入ってらっしゃって、店内のネオンと相まってとてもきらびやかでした。そこで手話のできる熊井郁美先生とも繋がることができ、レッスンを受けにいくようになりました。
 

以前はバレエもされていたとのことですが、初めて触れた社交ダンスはどうでしたか。
ねこ♡:組むと想像以上に相手の思いが読み取れて驚きました。相手の心配や懐疑的な思い、あるいは真摯な気持ちや優しさなど、顔を見てもわからない気持ちや性格が全部見えてしまうようで。だから社交ダンス、ペアダンスはコミュニケーションだと思います。

—リアルタイムでの情報が欲しい

レッスンを受けはじめてからもショーを見にいく機会はあったのでしょうか。
ねこ♡:パーティでのプロショーや競技会、ダンスイベントなどいくつか足を運びました。どれもすごかったんですが、手話通訳などの情報保障が課題でした。司会の話やダンスの説明、アナウンス内容などが入ってこないのです。なので感想を聞かれてもすごい、としか言えず…。

なるほど。パンフレットなどの説明だけではやはりわかりにくい部分が多いのですね。
ねこ♡:そうですね。ショーを観ながらだとパンフレットで情報を探すのが難しく、誰が今何をしているのかがよくわからないことが多かったです。ダンスが終わった後などに他の人たちがワーっと盛り上がっていても何故なのかわかりません。リアルタイムで情報がないと名前と顔もなかなか一致しないので、Twitterで他の人が〇〇組推しなどと言っているのを見ると、よく名前を覚えられるなぁと感心してしまいます。

感動の共有がしづらい、というのはきっと思うこともたくさんあると思います。今後どういった支援が入るときこえない方もより楽しめる環境になりそうでしょうか。
ねこ♡:アメリカではブロードウェイのミュージカルに、定期的に手話通訳がつく日程がありました。また、海外のミュージカルが来日したときに日本語字幕がステージの両側についていたことがあり、わかりやすさに感動しました。
しかし、日本では社交ダンスだけでなく、観劇などエンターテインメントの情報保障は発展途上にあります。手話通訳はもちろん、パソコン要約筆記やスクリーンへのプログラムの投影、音声認識ソフトなど使えるツールは増えています。ある程度の専門知識を持った人手や費用が発生してしまいますが、大学や企業と協賛するボランティアなどのアイディアもあるので、まずは情報保障を入れるという案を持って欲しいですね。

今回BEに手話通訳が入ることになったのも、連絡してご提案頂いたからと聞いています。ねこ♡さんの行動力には本当に尊敬します。
ねこ♡:もう、反射神経みたいな感じです。今回BEの手話通訳者として来てくださる方はとても経験豊富で頼りがいのあるプロフェッショナルな方です。ぜひきこえない人で観劇予定の方も期待していてください。

—社交ダンスはすべての人に許されるコミュニケーションツール

BEを見てくださったきこえない方も社交ダンスに興味を持ってくだされば良いなと思っています。
ねこ♡:そうですね。ただ、ブラインドダンスはある程度普及しているようですが、まだ聞こえない人が踊るdeaf(デフ)ダンスは社交ダンスの中では普及していないように思います。もちろん、個人で楽しんでいる人はいるかもしれませんが、きこえない人全体の解放に繋がっていかない現実があります。音声での意思疎通が難しく、踊ると筆談や口話の読み取りもできないためコミュニケーションが取りづらいことも大きな原因でしょうね。

なるほど。私たちのようなきこえる側の人間ができることなどはありますか。
ねこ♡:種目を伝えるための手話や紙での掲示方法、踊るときにリズムを伝えるためのカウントの取り方などを、もっと多くのきこえる人や主催者の方に知っていただきたいです。
イベントの際にはきこえない人とともに踊れるように、希望があれば、きこえないことがわかる方法があるといいかもしれません。見た目ではわからないので、目印をつけることで配慮ができると思います。そしてそのことをアナウンスして、存在や配慮の方法を全体に知らせてほしいです。
また、イベントでは、毎回でなくても大きなイベントの時は情報保障の予算を組み込むことを検討してほしいです。そうすることで新たなニーズの掘り起こしにも繋がるのではないかと思います。

社交ダンスは多くの人のコミュニケーションツールとなりうるポテンシャルはあるので、もっと環境を整えて行けるといいなと思います。
ねこ♡:今、
社交ダンス界隈も含めて時代はジェンダーフリー化が進んでいます。世の中には性別は男女だけではなく何十種類もあります。さらに、見えない人、きこえない人など多種多様な人が共存しています。そうした中でマイノリティへ配慮することは、結果的にユニバーサルデザインへつながっていくと思います。

今のお話を伺っていると、最初にお話にあった「組むと相手の考えが読み取れる」というのはとてもバリアフリーに近いのではないでしょうか。
ねこ♡:そうですね!社交ダンスは見えていても見えてなくても、きこえてもきこえなくても相手の考えが読み取れるツールです。一人でも多くの方に魅力が届き、ダンスの世界がすべてのマイノリティのインクルージョンに繋がることを願っています。

 社交ダンスをはじめ、より生活をゆたかにする文化・芸術はまだまだすべての人に開かれているとは言い難い状況かもしれない。しかし、彼女のように自ら行動している方の声をきき、主催者や先生だけではなく全ての人がより良くする方法を考えていくことで少しずつではあるが発展が生まれるのだと感じた。
 彼女が動いたことで一歩進化したイベント「BALLROOM EXPRESS 2020」は、今後社交ダンスの世界のバリアフリー化に一石を投じるだろう。

 関西発の観劇専門社交ダンスイベント。ぜひ世界を変える瞬間を、貴方の目で、耳で、体感して欲しい。

公式ホームページ:https://www.ballroomexpress.net/
クラウドファンディング:https://camp-fire.jp/projects/view/209651
バリアフリーステージ紹介サイト:http://ta-net.org/event/979

インタビュー・文:ひのきち

© 2019 by Dancer's Lake Stella.inc. 

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